鯖書房 » 岩波文庫部 » 赤版 » イギリス文学 » ウェルズ作、中西信太郎訳『トーノ・バンゲイ(上)』
『トーノ・バンゲイ』というよりも『ジョージ・ポンダレヴォーの半生(と意見)』というような具合。
一読しての奇妙に思うのは、トーノ・バンゲイ(とその周辺)非現実ぶりに対する、「私」の幼年期から青年期における生活の妙な現実味である。
私は叔父に会うとすぐに、なるほどこれはテディだと思った。…(中略)…それをほかの言葉で言いあらわすのは、なおさら難しいことである。
私はテディなど知らないが、「私」の「テディ的」という言葉には、完全に同意する。また、「私」の恋愛における失敗と後悔には、声をあげて頭を抱える。そんな種類の感情移入が「私」にはある。いや、それは感情移入ではなく、単純な読書体験における「なぞりたい」という欲求に過ぎないのかも知れない。傷口にあえて触れたい衝動のようなものである。
肝心の「トーノ・バンゲイ」については、まだほとんど語られない。いかにして「私」がいんちきと呼んで憚らない「トーノ・バンゲイ」と関わることになるのか(他でもない恋愛と結婚が原因となるのであるが)、そのような周縁的事実の効果が、後半の読みどころと思われる。妙な現実味と説得力がどこから漏れでているのかも、あわせて確認したい。
Posted at 2005. 6. 9|コメント(0)
