これだから古典は怖い

Posted on 火曜日, 5月 20th, 2008 at 11:52 PM

ノックスの十戒に足りないと私が思うのは「犯人は小賢しく」という項目です。これは「現代版」十戒という意味ではなく、あくまでも当時のノックスに、自らの十戒に加えてほしい。十一になるのは困るということであれば、「中国人禁止」か「ワトソンちょっと馬鹿」の項目を削ればいいでしょう。

という前置きを置いといて、あぁもうびっくりしましたよ。これ、他の作家が書いてたら間違いなく代表作ですよ。完全に油断したし、よもやこれほどまでに全力でフーダニットだとは、予想だにしなかった。そう、予想だにしなかった。

16年前の画家毒殺事件。犯人は妻。有罪判決懲役刑。そして、妻獄中死。なんだけども、妻は娘に「私は犯人ではない」という遺書を残していた。娘からの依頼を受け、ポアロ登場。

大昔の解決済み事件なので、手掛かりは関係者たちの「信用できない」証言しかありません。無理。その時点で無理。そしてご丁寧にも、その関係者たちに「信用できない」手記まで提出させるのです。カロリンに好意的な人も敵意的な人もみんながみんな、カロリンがやったと思ってるのですよ。

ここからネタバレですので、まだの人は絶対に読まないでください。人生の大いなる損失ですので。本当はもう、こうやって感想書いて公開していること自体がネタバレになっちゃうんですよねミステリは。

とかいいながら、さほどネタバレでもありません。

私は奇を衒った小説が好きなので、やっぱりカロリン犯人でしたっていう結末を期待しました。やっぱりカロリンが犯人で、これどうやってカーラに説明しようか知らんと悩む名探偵ポアロね。

でも途中で、ん?と思わせる。これ?なんか?おかしくない?と違和感を抱かせる。期待しない展開に若干落胆させられるんだけども、その落胆は実は騙されているがゆえなのです。そして結末で私は泣きましたよ。ミステリで泣いたのは異邦の騎士以来かも知れません。人は連れていかれた場所が違っていたときに泣くのです。荒唐無稽だとか途方途轍もないとかそういったことに対する驚きではなくってね。予想することを忘れていた、あるいは、予想すべきであるということを知らなかった。

まさかこいつがいちばん大嘘つきだったとは。

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