弧客(ミザントロープ)

Posted on 土曜日, 9月 30th, 2006 at 11:59 PM

きゃあ!月末!たすけて〜モリエ〜ル!って激しく既視感を憶えます。 それとも、なんらかの、空前の、モリエールブーム? すなわちモリブーム? 投稿日時をちょっとばかしインチキしたことについては涼しい顔でスルー。

いや、まぁ、そんなことはおいといて。今回は『弧客』でございます。正直、「店主が読まなくてよかった」と思いました。なにこの主人公。店主だったらぶった切りですね。まっぷたつでしょう。私は銀河よりも広大な心で許容しますが。

主人公アルセストは生真面目というか融通が利かないというか、人に対して思ってもみないことをいったり、阿諛追従するのが我慢ならないのです。ある詩の作者に意見を乞われてぼろかすに酷評し、訴訟沙汰になったりします(まぁこの場合はどっちもどっちですが)。こんな種類の対人潔癖症は、若さにはありがちなことととも言えます。

そんな彼の弱点は恋人(現代の感覚では「恋人」とは呼べないような気がしますが、それはさておき)。その恋人セリメエヌはアルセストの友人フィラントの言によれば、「コケットで口さがなく」「現代の悪癖がしみ込んでいる」「変な女」。無闇に愛嬌をふりまいて男性を翻弄するタイプの女性です。アルセストからすれば不真面目で不誠実で、本来最も嫌いなタイプの人間なわけですが、でもなぜか惚れてしまう、これも若さにはありがちなことですね。

そのことについてはアルセストも自覚的です。友人の突っ込みに彼は答えます。「僕がいかにあの若い未亡人を愛しているにしろ、目にあまる欠点がみえないわけではない。…僕があの欠点を認めても、咎めたてても、残念ながらあの女は男に好かれる女なのだ」。そして若さゆえの気負いでもってこう宣言するのです。「僕は誓って、強い情熱であの女の時代病を洗い清めてやるつもりだ」。

よけいなお世話だなぁと思いつつも、これだけならまぁそれはそれでがんばりやと言えなくもない。だけど、ちょっとあやしい手紙が一通出てきたくらいで、宣うのが次の科白ですよ。あえて引用タグで囲んでみますよ。

僕の望みを容れて不実な女に代わって望みをかなえて頂きたいのです。それでこそ仇も討てるのです。僕はあの女を罰したい一念で、貴女を心から想い、深い愛を傾けて、敬いかしずき、悦んで夫たる務めも果たし、誠心誠意で仕えます。これこそ僕の捧げる熱烈な犠牲なのです。

これをセリメエヌの従妹エリアントに向けて発するのです。エリアントは真面目なアルセストのことを憎からず思っていて、アルセストはそれを利用しようとするわけです。ただ、エリアントはきわめて冷静で、「復讐したいお気持ちもやがてなくなってしまいましょう」と受け流します。エリアントにはもう少しまともな男性と結ばれてほしいものです。

若いってことはただそれだけで病気なのです。ふつうならアルセストは極刑だと思うんですけど、精神鑑定で無罪になってしまいそうです。あるいは少年法が適用されて。言うなれば青年14歳。

さて、この「弧客」という聞きなれないことば。訳者によれば、「厭世家」とか「正義派」とか「寂しき人」とかいろいろ考えたがしっくり来ず結局「弧客」に落ち着いた、とのこと。「弧」はともかく「客」はどうしても「ゲスト」のニュアンスが含まれて違和感があるのですが、広辞苑で調べてみますと「ひとり旅の人」ということでやはりちょっと違うようにも思われます。含みがあるにせよ、含ませすぎではないかと。訳者が「親しめなかった」としてあえて避けた直訳の「人間嫌い」でよかったんじゃないのかな。七字の法則にも合致しますしね。

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